今回は音響監督、声優養成所講師、名古屋芸術大学准教授を務めていらっしゃる、ハマノカズゾウ氏に現役の音響監督ならではの目線、プロの現場のお話を伺いました。

前編・後編に分かれていますので、是非後編もご覧ください。
最後には番外編の質問もあります。

 

ハマノカズゾウ プロフィール

アニメの音響監督、舞台の作・演出家、声優養成所講師、名古屋芸術大学准教授

代表作
アニメーション(音響監督)
TV東京系「家庭教師ヒットマンREBORN!」
NHK Eテレ「クッキングアイドル!アイ!マイ!まいん!」
TV東京系「capeta-カペタ-」
TV東京系「軒轅剣 蒼き曜」 など

ドラマCD(音響監督)
「夏目友人帳」
「ヴァンパイア騎士」
「会長はメイド様」 など

Twitter:https://twitter.com/kazuzo_h

 

音響監督になったきっかけ

インタビュアー:
元々劇団の脚本家をされていたと伺ったのですが、そこから現在の音響監督になったきっかけはなんだったのでしょうか。

ハマノカズゾウ氏:
元々は舞台の作演出家で、名古屋でずっと演劇活動していたんです。
どうしても名古屋の演劇界って狭く、その中でいろんな人との出会いがある中で、演技の先生をやってくれないかという話になって、名古屋の演技を勉強する専門学校の講師として呼ばれて、そこで声優の三ツ矢雄二さん(※)という素晴らしい方に会いまして。

三ツ矢雄二 声優、音響監督、舞台の脚本・演出・作詞家としても活動。
タッチ:上杉達也役、キテレツ大百科:トンガリ役など

その方がたまたま講師としてご一緒した時に、僕のお芝居の仕方とか僕の芝居の考え方が面白いということで、それで突然「東京出てきて音響監督やらないか?」って言われて、その時は音響監督って仕事を全く知らなかったので、「僕は演出家なので音響やりません。嫌ですって」と伝えたら、「いや違うよ。音響監督っていうのはアニメーションとかの現場の演出家。声優さんに対する演出をするから、これは演出家の仕事なんだ、音響の仕事じゃないって」と言われた。
じゃあ良いですよって。三ツ矢さんを師匠として助手で東京に出て来て、アニメーションをやらせて頂いたっていうのが経緯です。

インタビュアー:
音響監督と言われると「音をいじる」というイメージしかないので、そうではなく演出なんだよという所が意外でした。

ハマノカズゾウ氏:
音響監督って2種類いるんですよ。
三ツ矢さんもそうですし、芝居・役者から上がってきた人、僕もそうなんですけれども舞台の演出家から上がってきた人。そういった人達っていうのは音響監督の中でも演出をする音響監督、要は『演技指導する音響監督』

実はミキサーさんとか音響制作と言われる人で音響監督になる人もいっぱいいるんですよ。
その方たちは『音のスペシャリスト』の音響監督なんです。
なので音響監督は2種類居ます、。
もちろんやっている事は一緒なんですけど、やはり得意が違う。

僕らみたいに演技から来た人は声優さんへの演技指導、『アフレコ指導』が得意。
でも実は音響監督って『ダビング作業』というのがあって、SE(効果音)、音楽、セリフをミックスする作業があるんですね。それを仕切るのも音響監督なので、そちらに関してはやはりミキサーさんとかやっている人たちの方が強いです。なので、凄い方でどちらも得意な方もいらっしゃるんですけど、大概どちらかが得意ですね。
僕は演技を教えるのが得意だったのが、 三ツ矢雄二さんは演技指導が上手く、ミックス作業が得意ではなかったので、助手として僕が入ったことによって、三ツ矢さんがガンガンアニメーションのアフレコの演出をされていて、その作品のダビングの演出が僕っていう。

インタビュアー:
そういう役割分担があったんでね。

ハマノカズゾウ氏:
そういった期間が長かったんです。なのでいつのまにか音の方が強くなっちゃった。
音の方が強くなってその後、三ツ矢さんから独立して音響監督を単独でやるようになった時には芝居の演技の方の演出家もやってきて、そしてずっとダビングもやってきたので、両方得意っていうのでそれで今こうやって仕事をいただけているって状況です。

インタビュアー:
三ツ矢さんと出会って音響監督になったという事は知っていたのですが、細かな所が謎に包まれていた部分だったので初めて知りました。

ハマノカズゾウ氏:
笑うのが三ツ矢さんとの出会いが、先生として出会って僕の演出を知ってくれていて、僕のお芝居とか見てくれているんですけど、ずっと会ってなかったんですよ。全く疎遠になっていて、ある日名古屋の栄で友達と呑んで歩いていたらトンガリの声が遠くから聞こえてきて(笑)

一同笑

ハマノカズゾウ氏:
この声聞いたことあると思って振り向いたら三ツ矢さんがいて、「何してるの今?」と聞かれたので、ちゃんと演出業も先生業もやっていますって言ったら「勿体ないよ!東京来な!」と言われて。
栄の街で会わなかったら、今きっとここには居なかったですね。

インタビュアー:
凄い偶然ですね!

ハマノカズゾウ氏:
たまたまトンガリの声に僕が反応したっていう。

 

音響監督が難しいと思う時

インタビュアー:
アフレコの演出をされる際に難しいな思うことはありますか

ハマノカズゾウ氏:
一番難しいのは、舞台とかの演出って、『演出家が絶対』だから自分の答えと自分のやりたいものをやれるじゃないですか。
でもアニメーションは『監督が絶対』なんです。監督が創りたい物、やりたい事、演技の方向性を分かりやすく声優さん達に伝えるのが僕らの仕事。
実は音響監督って監督と声優さんの翻訳機なんです。

それが、監督自体がよく分からない時に困ります(笑)。

インタビュアー:
そういう方っていらっしゃるんですか?

ハマノカズゾウ氏:
全部擬音の方がいます(笑)
「ハマノさん『ゴーン』なんだよ!」とか「『ガーン』といきたいんだ」「ここ『ビビッ』といきたいんだ」とか(笑)

インタビュアー:
難しいですね。

ハマノカズゾウ氏:
「う~ん『ビビッ』ですね…」って。
一番困ったのが『色』で言われた時があって。

「ハマノさん!ここね『赤』なんだ」
戦闘シーンとかのイメージだから、俗に言う戦隊物で『赤』ってヒーローで一番強いじゃないですか?
日本語が分かりにくい監督だと、それを翻訳して声優さんに伝えるのがむちゃくちゃ難しい時ありますね。

インタビュアー:
画が間に合わない時は線画でアフレコする時がありますが、そこで音響監督がうまく翻訳できないと声優さんとしても演技の方向が分からないですよね。

ハマノカズゾウ氏:
そこなんですよ。
なので、声優さん達は画を見てお芝居するのに、その画が今おっしゃった通り線画って言われる動かない鉛筆で書いているだけのような画なので、それに合わせてやろうとすると結局、画が笑っているのか泣いているのか分からない。
その中で役者さんは泣いた芝居をしようと思って泣いた芝居すると監督が「そこは泣かない」と。そうするとそこは泣かないらしいというやり取りをする。
線画でアフレコをしなくてはいけない時は役者さんが想像力を持って、このシーンってこういう感情じゃないかっていうのをやってくれるかどうか。
やってくれたのを良い監督だとちゃんと判断して、「今のお芝居ずれています」「今の芝居だと画の考え方と違います」って言ってくれるんだけれども、監督って演技の事が分からないので、声優さんが芝居をすると正しく感じてしまうから、何も言えない監督もいらっしゃるんです。そうすると監督に確認すると「う、うん」って言っちゃう。

『ダビング』っていう作業も線画でやる時があるので、僕らもフルカラーで見られるのがオンエアーということがあります。だから僕らもオンエアーで答え合わせ。

インタビュアー:
ドキドキしますね。

ハマノカズゾウ氏:
そういう監督だと、「あの監督あの時モゴモゴしていたけど大丈夫かな?」と思ってオンエアーを見たら、「泣いている(画)じゃーん!!」とか。
役者は泣いている芝居じゃないのに画はぼろぼろ泣いているとか。
あと、監督に夕暮れのシーンか確認して「夕暮れのシーンだと思う」みたいな言い方をするから、声優さんにも夕暮れのシーンと伝えると声優さんが分かりましたと。
やっぱり夜と夕方では、人って会話の雰囲気が違うじゃないですか?
それこそ夕日が沈む中、男女がベンチに座って語っている会話の演技にしてくれたんですけど、オンエアー見たら『真っ暗』でした(笑)

インタビュアー:
声優さんもオンエアーまでドキドキしますね。

ハマノカズゾウ氏:
声優さんたちもオンエアーは答え合わせとして見ているので、それが思っていた画と違ったりとかすると、よく次の週とかに「ハマノさん、思っていた物と全然違った」って言いに来ます。

インタビュアー:
そこは難しいですね。

ハマノカズゾウ氏:
なのでそこは音響監督の『腕』。要は、監督とコミュニケーションをとって、監督にこの画の役者さんの芝居は合っているか、役者さんはこういう感情論で芝居しているんだけれども画の内容と合っているかというのを、危ないかなと思う箇所を全部チェック出来るかどうか
それで言うとやっぱり声優さんがやった芝居が何を意図しているかが分かる演出家じゃないと、線画だとズレまくっちゃいますね。
僕は、音響監督は演技のこと分かっている人じゃないと、線画でのアフレコがある場合難しいんじゃないかなと思いますね。

インタビュアー:
音だけが得意だと、線画で画を想像しなければいけないので、演出出来ることも大事ですね。

ハマノカズゾウ氏:
声優さん達が凄いですよね。
売れている、人気のある声優さんはやはり、画を動いてちゃんとイメージしてやってくれている。
新人さん達はやっぱり『ボールド』って言ってセリフのマーキングが出るんですけど、そればっかり見ていて想像力が少なくて、タイミング合わせてセリフは言っているけど、キャラクターは何か動いてないというのがあって、それはやっぱりベテランさんとか売れている人達は余裕があるので、そのマーキングにセリフを合わすだけじゃなくて、凄く想像してその作品をやってくれているので、レベルの差はそこに感じますよね。

 

現場での違いについて

インタビュアー:
音響監督として、アニメの現場、ドラマCD(ボイスドラマ)での役割や現場の違いはありますか。

ハマノカズゾウ氏:
アニメの現場は、基本『監督が絶対』なので、監督の作りたい世界を作ろうとするっていうのが一番。
ドラマ CD は原作があるので、『原作の先生がどういう作品を作りたかったかを理解して作る』のが一番。
だから世界を見る目が『監督目線』がアニメで、『原作目線』がドラマ CD と僕は思っています。

インタビュアー:
ドラマCDの現場に入る場合は原作を全部?

ハマノカズゾウ氏:
小説も漫画もすべて100%読みます。
ありがたいことに、ドラマCDの現場はほぼ原作の先生とか来てくれる事が多いんですよ。
僕は会った瞬間めちゃくちゃ質問の嵐です。挨拶したら「原作は全部読ませてもらって、多分ファンはこういう所見たいと思うんですけど、先生もそういう所一番大事ですか?」ってそこから始まります。
ドラマ CDの現場は、先生がこの作品で一番大事にしていて守りたい物、それが何なのかっていうのを聞いてから僕は仕事に入るようにしています。

原作の先生が来られない時もたまにあります。その時は編集者さんとかライターさんが来ることが多いので、この作品はこういう解釈で合っているか、必ず擦り合わせをしてから入りますね。そこが大きくずれてしまうと、原作の先生が創りたくないものが出来てしまう。
ゼロから生んだ先生達からすると作品は子供みたいなものなので、大事な自分の子供を変な風にされたら困ると思いますし、先生の一番大事な世界観を絶対守るというルールで僕はやっています。

なので、アニメは『監督』、ドラマCDは『原作』、舞台は『自分』と切り分けてやっています。

番外編①

職業病編

インタビュアー:
テレビを見たり、ラジオを聴いたりして演出をしてしまうなど、音響監督の職業病などはありますか?

ハマノカズゾウ氏:
それは絶対あります。僕は音楽の入りが気になって気になって。ドラマとか見ていても、ちょうど良いシーンで音楽が入った瞬間、「臭くなるからやめろ」って思うことが多々あるし。

一同笑

ハマノカズゾウ氏:
役者さんがこんなに良い芝居しているのに、なんで嘘くさい感動的な曲つけるの?とか。
音楽の入りと番組の構成が気になってイライラしますね。

インタビュアー:
結構重症な職業病ですね。

ハマノカズゾウ氏:
横で奥さんから「うるさい」って怒られますもん(笑)

後は「ノイズ」ですね。
電車とかに乗っていても、ペンをずっとカチカチしたりする人。

インタビュアー:
そういう音も敏感に入ってきてしまうんですね。

ハマノカズゾウ氏:
どうしても仕事柄、人が喋ってお芝居している中で、ほんの少し「カサッ」って音がすると「あっNGだ」とか、何カットで音が入ったって台本にチェックする癖が付いているので、普通に生活していても何かノイズっぽい音がしたり、断続的に続いたりすると、気になって「止めてぇ~」ってなる時があります(笑)

インタビュアー:
音響監督になる前はそういう音とかは気になっていましたか?

ハマノカズゾウ氏:
何にも!全く。

インタビュアー:
今の職業に就いてからそういうのが気になるようになった?

ハマノカズゾウ氏:
母親に「あんた足音がうるさい」ってしょっちゅう言われていましたから。
自分はドンドン歩いていたのに、今じゃ声優さんに「ちょっと足音うるさいよ」、「ノイズ入っているよ」って。
だから仕事のせいですね。

 


前編は音響監督について、現場での違いなどを伺いました。
後編では思い入れのある作品、現場単位での考え方の違いを伺っていきたいと思います。

ハマノカズゾウさんの最新情報はTwitterをご確認ください。
Twitter:https://twitter.com/kazuzo_h

 

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